アベノミクス景気を検証、「実感なき回復」との批判は本当に正しいか
日々起きている政治・マクロ経済・マーケットの動きを、専門家の執筆陣が鋭く分析する。投資や事業運営の方針を立てる上で役立つ「深い知見」を身に付けよう。
アベノミクスが「実感なき景気回復」と言われるのは、なぜだろうか(写真はイメージです) Photo:PIXTA
アベノミクス景気における賃金・所得
デフレ後の景気回復期より増加幅大きい
歴代最長となった安倍政権は幕を閉じ、後継の菅内閣に政権運営が引き継がれる。安倍総理の就任とともに始まった戦後の第16循環の景気回復は「アベノミクス景気」と称されることが多いが、アベノミクス景気は内閣府が認定したように2018年10月で終わり、11月以降は景気後退局面となっている。
アベノミクス景気の期間は71カ月に及び、戦後最長となった第14循環の回復局面である「いざなみ景気」(2002年2月~2008年2月)の73カ月に迫る長期となった。ただ、アベノミクス景気は、賃金や家計所得が増えず、実感のない回復で、個人消費も伸びなかったとの指摘も多い。そこで以下では、アベノミクス景気に対する各種批判を確認してみたい。
アベノミクス景気における賃金や家計所得は、平均値や国内全体でみると増加が確認できる。また増加幅は、「デフレ状況」となったのちの戦後の第13、14、15循環の景気回復局面よりも大きい。
※第13循環の回復局面は1999年2月から2000年11月まで。
第14循環の回復局面(いざなみ景気)は、2002年2月から2008年2月まで。
第15循環の回復局面は、2009年4月から2012年3月まで(リーマン・ショック後の回復)。
賃金の代表的な指標である1人あたり雇用者報酬は、アベノミクス景気初めの2012年10-12月期の458万円強から18年10-12月期には479万円強と、4.6%増加している(図1上段参照)。これに対し、第13、14、15循環の回復局面では、いずれも減少(それぞれ0.7%減、2.4%減、0.7%減)している(同)。
アングル:静かな兜町、実感なき日経平均3万円 客減少に苦しむ飲食店
[東京 2日 ロイター] - 日経平均株価が約30年半ぶりに3万円を回復したにもかかわらず、東京都日本橋兜町・茅場町界隈では、かつてのようなにぎわいはみられない。人通りは少なくなり、飲食店は新型コロナウイルス禍も加わって、厳しい営業を強いられている。1980年代のバブル景気を知る飲食店に、今と当時との違いを聞いた。
3月2日 日経平均株価が約30年半ぶりに3万円を回復したにもかかわらず、東京都日本橋兜町・茅場町界隈では、かつてのようなにぎわいはみられない。人通りは少なくなり、飲食店は新型コロナウイルス禍も加わって、厳しい営業を強いられている。2月25日、東京の茅場町で撮影(2021 ロイター/Junko Fujita)
<「元気がなくなった」>
茅場町の霊岸橋近くにあるダイニングバー「Wall Street」は、バブル景気真っ盛りの1989年にオープン。オーナーの井上賢一さんは、店が満席で入店を断ったにもかかわらず、レジで1杯5500円の高級スコッチウイスキー、バランタイン30年物を注文した人が忘れられないという。
「当時の証券マンは朝早いが、午後3時頃には仕事を終えてオフィスの外へぞろぞろと出てきてお酒を飲み始めていた。みなさんはいわゆる肉食系。場立ちの人がいなくなってからは町を歩く人の数が激減。声を張り合う人たちがいなくなり、町の元気がなくなった」と井上さんは振り返る。
昭和26年創業の割烹料理屋「辰巳」では、常連客が「ボトルキープ」ならぬ「現金キープ」をしていたという。店主の津田昌彦さんは「週のはじめに10万円をお店に預け、足りない分を補充していくスタイルの人が多かった。みんな現金で支払い領収書をもらっていかなかったので、個人のお金だったのではないか」と話す。
同店では、株価が下がると天ぷらを頼む人もいた。兜町や茅場町では、うなぎや、天ぷら、焼き鳥を扱う飲食店が多い。「うなぎ登り」、「飛ぶ鳥を落とす」、「天ぷらを揚げる(上げる)」として、ゲン担ぎをする証券マンに長年親しまれている。
「30年ぶりの高値と言われても、ピンと来ない。コロナ禍で失業者が増えたり、倒産が増えたり、という中で、なぜ日経平均だけが上がっているのか分からない。あのバブル景気のときと今とでは感覚が違う。当時は、証券マンが多くて人口もすごかったが、今は場立ちさんもいないし人も少ない」と津田さんは当時との違いを指摘する。
<証券業界は8万人減少>
日本証券業協会のデータによると、証券業界の従業員数が最も多かったのは1991年6月末時点の17万0076人(役員を含む)。2020年12月末時点では8万9958人と、8万人以上減少している。証券会社の営業所数も、1991年末時点では3297店だったのに対し、2020年末時点は1807店となっている。
2020年12月末時点での全国証券会社数は269社と、1991年末時点での267社からやや増えているものの、兜町や茅場町を含む日本橋を本店所在地とする証券会社は53社から37社へ減っている。
株の取り引きがデジタル化され、効率化が進んだ面もあるほか、証券会社の所在地も今は兜町だけではなく分散化している。証券業界の従業員数や営業所数の減少が東京株式市場の衰退を示すとは一概には言えない。
新人時代を兜町で過ごしたSMBC日興証券の投資情報部部長、太田千尋氏は「東京証券取引所を行き来する場立ちの人たちがいなくなった今、証券会社を兜町に構える必要はなくなった」と指摘する。「リーマンショック後の日本企業の体質強化は目覚ましかった。日本株もようやく評価されてきたと実感する」という。
ただ、当時との違いを指摘する声は依然として多い。「30年前は、日本はライジングサンと呼ばれ、米国に迫る勢いがあった。世界の時価総額の上位に日本企業の名前が並んだが、今や見る影もない。世界の株価の上昇にともない、ウエートリバランスで買われているだけだ」(ケイ・アセット代表の平野憲一氏)との声も聞かれる。
<コロナで逆風、対応強いられる飲食店>
創業56年の「ニューカヤバ銘酒コーナー」は、昭和時代の面影を残すレトロな居酒屋だ。酒類は自動販売機で購入、焼き鳥も炭火炉でセルフで焼く、安価で親しみやすいスタイルを長年続けている。
オーナーの服部洋子さんは「不景気のときに客足が増えた気がする」と振り返る。「日経平均3万円の実感はない。株をたくさん買う人は景気がいいと思うのかもしれないが、庶民はそうではない。むしろ生活に不安を感じる人のほうが多いのではないか」と話す。
新型コロナウイルスの感染拡大以降、飲食店は時間営業短縮のほか、感染対策を強いられている。前出の「Wall Street」では、ソーシャルディスタンスを保つため、客席間の距離を確保したほか、テーブルの上にも高めのアクリル板を設置。換気をよくするため、窓の工事や地下の換気設備も一新する対応を取った。
「やれることはすべてやったつもり。息子がリモートワークをやっているが、いろいろと大変そう。コロナでストレスを抱えた人を受け入れられるような店にしたい」と、オーナーの井上さんは話している。
(佐古田麻優、浜田寛子、藤田淳子 編集:伊賀大記)
“実感なき株高”は少数IT牽引 「値がさ株」が指数左右、銘柄の3分の2下落 - SankeiBiz(サンケイビズ):自分を磨く経済情報サイト
日経平均株価が3万円を超え、バブル期以来約30年半ぶりの高値圏で推移している。新型コロナウイルス禍で景気が悪いのに、なぜ株価はこんなに上がるのか。実感なき株高の背景には、少数のIT関連株が平均株価を牽引し、価格の高い「値がさ株」の動きに指数が左右されやすい相場の構造がある。
新顔が上位
国内外の金融緩和を追い風に平均株価が年間で3787円(16%)上昇した2020年。実は平均株価に組み込まれている225銘柄中、値上がりしたのは77銘柄に限られ、3分の2に当たる148銘柄は下落した。
PR
ニコンや三菱自動車が半値以下に沈み、旅客が減ったJR東日本やANAホールディングスは3割超下落した。国内有数の60万人超の個人株主がいるNTTは4%安となり、バブル期に時価総額上位を占めた銀行株も振るわなかった。
対照的に上昇率が高かったのはIT企業だ。首位は株価が約3倍に上がった医療従事者専用サイト運営のエムスリー。2位、3位にはスマートフォン向けゲームを手掛けるネクソンとサイバーエージェントが続いた。3社ともバブル期にはまだ創業しておらず、18年以降に平均株価の構成銘柄に採用された新顔だ。コロナ時代の成長が見込めるとして緩和マネーが集中的に流れ込んだ。
平均株価の構成銘柄では、オンラインと実店舗で衣料品を販売するファーストリテイリングが1株10万円を超える。他方、数百円程度の企業もあり、個別株価の開きが大きい。平均株価は算出の仕組み上、値がさ株の影響を大きく受けることになる。
三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩氏によると、ファストリ、ソフトバンクグループ、エムスリーなど影響力の大きい上位9銘柄だけで20年の寄与額が計3801円に達し、平均株価の年間上昇分を説明できてしまうという。
PR
年明け以降も株高の原動力となったのは値がさ株だ。代表格であるファストリの新規投資には1000万円超(100株)が必要で、個人投資家にはなかなか手が届かない。楽天証券の土信田雅之氏は「株高を演出したのは日銀と外国人で、個人への恩恵は限られている」と語る。
東京証券取引所などの株式分布状況調査によると、直近の19年度末は外国人投資家の保有比率が29.6%、国内信託銀行は21.7%に達した。信託銀には日銀の上場投資信託(ETF)購入分が含まれ、比率を押し上げた。一方、国内の個人投資家は長期低落傾向で、19年度末は16.5%と過去最低を記録した。
マネー息切れ
大口の資金を持つ投資主体で相場を動かす中では、今後の株価も景気実感から懸け離れた形で進む可能性がある。
東海東京調査センターの平川昇二氏は「そろそろ『景気が良いのになぜ株価が下がるのか』と言われるようになる」とみる。コロナ後の景気回復を示唆する経済指標が相次ぐようになれば、市場は金融緩和の拡大が終わると先読みすると指摘。「平均株価が3万5000円に向かうことはないだろう」と投資マネーの息切れを予想した。
PR
【用語解説】値がさ株
PR
株式市場で高い価格で取引される銘柄を指し、株価が1万円を超えるソフトバンクグループなどが該当する。構成銘柄の株価を合計して算出する日経平均株価では、値がさ株は株価が数百円の銘柄よりも大きな影響を指数に与える。一方、株価と株式数を掛け合わせた時価総額に着目して算出する東証株価指数(TOPIX)は、時価総額の大きな銘柄の値動きに左右される傾向がある。