日経平均続落、クロス円で円高進む 識者はこうみる
[東京 20日 ロイター] - 20日午前の東京市場で日経平均は続落し、一時300円安となった。為替はクロス円で円高が進んだ。
7月20日午前の東京市場で日経平均は続落し、一時300円安となった。為替はクロス円で円高が進んだ。写真は2020年10月、東京証券取引所で撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
専門家の見方は以下の通り。
●正常化後ずれ懸念、2万7000円割れシナリオも
<三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ投資ストラテジスト 藤戸則弘氏>
新型コロナウイルスの変異株「デルタ株」の世界的な感染拡大の動きを受けて、経済の正常化が後ずれしかねないとの警戒感が強まっている。英国、東南アジアで感染者が急増し、米国でも増加傾向となっており、マクロの景況感や企業業績への影響が警戒されている。感染のピークアウトが見えてこなければ、市場心理の好転は見込みにくい。
東京市場では、日経平均の目先の下げは限定的となっている。巣ごもり需要やテレワークの再拡大を見越して米フィラデルフィア半導体指数(SOX指数)の上昇を受けて半導体関連株が寄り付きからしっかりとなり、指数の下げを和らげた。
一方、景気敏感のエネルギーや素材、資本財は売られている。空運、鉄道、百貨店、外食、レジャーといったコロナ禍の影響を受けやすい業種の回復は後ずれするリスクがある。
ワクチン接種が人口の6割を超えた英国でも新規感染者数が1月のピーク時に迫っている。こうしたデルタ株の抑制の難しさを踏まえれば、国内の緊急事態宣言が8月22日で解除されるかは不透明だ。短期的には、日経平均の2万7000円割れのシナリオもみておく必要がある。
日本株が本格反騰するためには、ワクチン接種率が上昇し、コロナ感染抑制を実感できることが必要条件となるだろう。
●経済回復なき金融相場は機能しない可能性
<バンク・オブ・アメリカ チーフ為替・金利ストラテジスト 山田修輔氏>
市場の混乱の理由の一つとされる新型コロナウイルスの変異株「デルタ」についてはまだ分からないことが多く、不確実性が高い。これまでの「世界経済の回復が進んでいく」というシナリオにリスクが高まってきている。市場は経済の回復・再開を見込むポジションを構築してきたが、足元ではその巻き戻しが継続している。
感染拡大の深刻化で再び各中銀が金融緩和に向かう可能性が出てくれば、緩和長期化の織り込みが進むと思うが、今のところはそういった織り込みの動きはみられない。中銀が(デルタ株の感染拡大に)反応するまでは時間がかかることも予想され、再び金融緩和を行ったところで結局経済再開が見通せないとなると、以前のように金融相場が機能するかどうかも不透明だ。
リスクオフムードが継続する環境下では、ドル/円はドル買いと円買いの綱引きになるのではないか。ただ、今年2―3月にみられたように、経済回復期待で米金利が上昇しドル高をけん引してきた点を踏まえると、足元の経済回復の減速懸念によってドル/円は円高方向の調整が入ってもおかしくないだろう。
●金融市場は「負のスパイラル」、ドル/円下げ余地は限定
<オフィスFUKAYAコンサルティング代表 深谷幸司氏>
市場心理は、インフレ警戒・金融緩和の早期解除・金融正常化から、感染再拡大・経済正常化の鈍化・景況感の悪化・景気減速懸念へと傾いている。
市場では、これまでの過剰なリスクテイクのアンワインド(巻戻し)が入っている。具体的には株ロング、債券ショートのアンワインドや、原油先物ロングのアンワインドなどがある。
一連のアンワインドの結果としての株安や原油安が、さらなる景気減速懸念を生み、それが一段の株安をもたらすという「負のスパイラル」が起きているとみている。
市場で過剰なリスクテイクが圧縮されることは、長期的には悪いことではなく、米連邦準備理事会(FRB)も量的緩和の段階的縮小に向けて、淡々とコマを進めると予想する。
FRBは、雇用、物価に加えて資産価格とくに住宅市場の動向を注視しているようだ。雇用については回復基調が確実であることを見極めながら、水準としてはまだ十分でないとして、足元では、緩和継続の根拠としている。
ただ、企業サイドでは人手不足感が強まっており、雇用者数が増加することは確実のようだ。経済正常化で失業給付金が打ち切りとなることで就業意欲が高まれば、雇用者数が増加するかたちで企業の懸念が緩和することになるだろう。
為替市場では、リスク回避の環境下でドルと円が同時に買われやすくなるため、ドル/円の下押しリスクは108円ちょうど程度までとみている。ただ、リスク回避で売られやすいクロス円が脆弱なため、クロス円の下落による円高圧力には注意を要する。
●米景気回復ピークアウトの予感、ドル指数に下げ余地
<マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表 亀井幸一郎氏>
新型コロナワクチン普及により、米国では他の国々に比べて経済の立ち直りと金融政策の正常化が早いという予想からドルは買われてきた。
しかし、現在は米国におけるコロナからの回復の勢いが、ピークを過ぎた可能性が高いとみている。
29日には4―6月期の米国内総生産(GDP)が発表される予定だが、コロナからの回復の「ピークアウト感」を確認することになるのではないか。
為替市場では「米国が先行してコロナから立ち直る」ことを織り込みつつ、ドル指数が上昇してきた。しかし、今後は、米景気回復を先食いした分、回復のピークアウトと景気減速というリアリティーに向き合っていくことになりそうだ。
さらに、米国ではこれから来年度の財政協議が本格化するが、バイデン政権の財政拡張政策を背景に今後もドルの供給は続くとみられ、ドル相場にとってはマイナス要因となるだろう。
ドル/円については、投機的な円ショートに巻き戻し余地もあるため、来月にかけて108円台まで下落することもあり得るとみている。
アベノミクス景気を検証、「実感なき回復」との批判は本当に正しいか
日々起きている政治・マクロ経済・マーケットの動きを、専門家の執筆陣が鋭く分析する。投資や事業運営の方針を立てる上で役立つ「深い知見」を身に付けよう。
アベノミクスが「実感なき景気回復」と言われるのは、なぜだろうか(写真はイメージです) Photo:PIXTA
アベノミクス景気における賃金・所得
デフレ後の景気回復期より増加幅大きい
歴代最長となった安倍政権は幕を閉じ、後継の菅内閣に政権運営が引き継がれる。安倍総理の就任とともに始まった戦後の第16循環の景気回復は「アベノミクス景気」と称されることが多いが、アベノミクス景気は内閣府が認定したように2018年10月で終わり、11月以降は景気後退局面となっている。
アベノミクス景気の期間は71カ月に及び、戦後最長となった第14循環の回復局面である「いざなみ景気」(2002年2月~2008年2月)の73カ月に迫る長期となった。ただ、アベノミクス景気は、賃金や家計所得が増えず、実感のない回復で、個人消費も伸びなかったとの指摘も多い。そこで以下では、アベノミクス景気に対する各種批判を確認してみたい。
アベノミクス景気における賃金や家計所得は、平均値や国内全体でみると増加が確認できる。また増加幅は、「デフレ状況」となったのちの戦後の第13、14、15循環の景気回復局面よりも大きい。
※第13循環の回復局面は1999年2月から2000年11月まで。
第14循環の回復局面(いざなみ景気)は、2002年2月から2008年2月まで。
第15循環の回復局面は、2009年4月から2012年3月まで(リーマン・ショック後の回復)。
賃金の代表的な指標である1人あたり雇用者報酬は、アベノミクス景気初めの2012年10-12月期の458万円強から18年10-12月期には479万円強と、4.6%増加している(図1上段参照)。これに対し、第13、14、15循環の回復局面では、いずれも減少(それぞれ0.7%減、2.4%減、0.7%減)している(同)。
アングル:静かな兜町、実感なき日経平均3万円 客減少に苦しむ飲食店
[東京 2日 ロイター] - 日経平均株価が約30年半ぶりに3万円を回復したにもかかわらず、東京都日本橋兜町・茅場町界隈では、かつてのようなにぎわいはみられない。人通りは少なくなり、飲食店は新型コロナウイルス禍も加わって、厳しい営業を強いられている。1980年代のバブル景気を知る飲食店に、今と当時との違いを聞いた。
3月2日 日経平均株価が約30年半ぶりに3万円を回復したにもかかわらず、東京都日本橋兜町・茅場町界隈では、かつてのようなにぎわいはみられない。人通りは少なくなり、飲食店は新型コロナウイルス禍も加わって、厳しい営業を強いられている。2月25日、東京の茅場町で撮影(2021 ロイター/Junko Fujita)
<「元気がなくなった」>
茅場町の霊岸橋近くにあるダイニングバー「Wall Street」は、バブル景気真っ盛りの1989年にオープン。オーナーの井上賢一さんは、店が満席で入店を断ったにもかかわらず、レジで1杯5500円の高級スコッチウイスキー、バランタイン30年物を注文した人が忘れられないという。
「当時の証券マンは朝早いが、午後3時頃には仕事を終えてオフィスの外へぞろぞろと出てきてお酒を飲み始めていた。みなさんはいわゆる肉食系。場立ちの人がいなくなってからは町を歩く人の数が激減。声を張り合う人たちがいなくなり、町の元気がなくなった」と井上さんは振り返る。
昭和26年創業の割烹料理屋「辰巳」では、常連客が「ボトルキープ」ならぬ「現金キープ」をしていたという。店主の津田昌彦さんは「週のはじめに10万円をお店に預け、足りない分を補充していくスタイルの人が多かった。みんな現金で支払い領収書をもらっていかなかったので、個人のお金だったのではないか」と話す。
同店では、株価が下がると天ぷらを頼む人もいた。兜町や茅場町では、うなぎや、天ぷら、焼き鳥を扱う飲食店が多い。「うなぎ登り」、「飛ぶ鳥を落とす」、「天ぷらを揚げる(上げる)」として、ゲン担ぎをする証券マンに長年親しまれている。
「30年ぶりの高値と言われても、ピンと来ない。コロナ禍で失業者が増えたり、倒産が増えたり、という中で、なぜ日経平均だけが上がっているのか分からない。あのバブル景気のときと今とでは感覚が違う。当時は、証券マンが多くて人口もすごかったが、今は場立ちさんもいないし人も少ない」と津田さんは当時との違いを指摘する。
<証券業界は8万人減少>
日本証券業協会のデータによると、証券業界の従業員数が最も多かったのは1991年6月末時点の17万0076人(役員を含む)。2020年12月末時点では8万9958人と、8万人以上減少している。証券会社の営業所数も、1991年末時点では3297店だったのに対し、2020年末時点は1807店となっている。
2020年12月末時点での全国証券会社数は269社と、1991年末時点での267社からやや増えているものの、兜町や茅場町を含む日本橋を本店所在地とする証券会社は53社から37社へ減っている。
株の取り引きがデジタル化され、効率化が進んだ面もあるほか、証券会社の所在地も今は兜町だけではなく分散化している。証券業界の従業員数や営業所数の減少が東京株式市場の衰退を示すとは一概には言えない。
新人時代を兜町で過ごしたSMBC日興証券の投資情報部部長、太田千尋氏は「東京証券取引所を行き来する場立ちの人たちがいなくなった今、証券会社を兜町に構える必要はなくなった」と指摘する。「リーマンショック後の日本企業の体質強化は目覚ましかった。日本株もようやく評価されてきたと実感する」という。
ただ、当時との違いを指摘する声は依然として多い。「30年前は、日本はライジングサンと呼ばれ、米国に迫る勢いがあった。世界の時価総額の上位に日本企業の名前が並んだが、今や見る影もない。世界の株価の上昇にともない、ウエートリバランスで買われているだけだ」(ケイ・アセット代表の平野憲一氏)との声も聞かれる。
<コロナで逆風、対応強いられる飲食店>
創業56年の「ニューカヤバ銘酒コーナー」は、昭和時代の面影を残すレトロな居酒屋だ。酒類は自動販売機で購入、焼き鳥も炭火炉でセルフで焼く、安価で親しみやすいスタイルを長年続けている。
オーナーの服部洋子さんは「不景気のときに客足が増えた気がする」と振り返る。「日経平均3万円の実感はない。株をたくさん買う人は景気がいいと思うのかもしれないが、庶民はそうではない。むしろ生活に不安を感じる人のほうが多いのではないか」と話す。
新型コロナウイルスの感染拡大以降、飲食店は時間営業短縮のほか、感染対策を強いられている。前出の「Wall Street」では、ソーシャルディスタンスを保つため、客席間の距離を確保したほか、テーブルの上にも高めのアクリル板を設置。換気をよくするため、窓の工事や地下の換気設備も一新する対応を取った。
「やれることはすべてやったつもり。息子がリモートワークをやっているが、いろいろと大変そう。コロナでストレスを抱えた人を受け入れられるような店にしたい」と、オーナーの井上さんは話している。
(佐古田麻優、浜田寛子、藤田淳子 編集:伊賀大記)